関連記事 【天然ワックスの低揮発分 Part1】
■はじめに
皆様はカルナウバヤシというブラジル原産の樹木をご存知でしょうか?
カルナウバを原料としたカルナウバワックスは樹脂添加や成形、封止材として実は様々なものに使用されています。
この記事では数回に渡りカルナウバワックスの耐熱判定や離型性、細かい成分を紐解いていきます。
工業用天然ワックスの代表格カルナウバワックスは合成できない特異的な構造を持っています。
メイン成分のモノエステルには水酸基がついています。これが、樹脂添加剤として顔料の分散効果やフィラーの高充填に寄与。エポキシ、ABS、ポリエステル、スチレンアクリル等の樹脂添加剤に使用されています。また、10%以上含有しているC30を含む高級アルコールも耐熱安定があり分散付与が期待できますね。
一般に販売されている高級アルコールはC22までですからカルナウバの高級アルコールは高温で混練りするマスターバッチの製造や粉砕型トナーの製造において減粘に寄与するのも想像出来ると思います。
・ベヘニルアルコール(C22アルコール)
・カルナウバロウ
図1 GCと市販のベヘニルアルコール(C22アルコール)とカルナウバ高級アルコールGCの比較図
写真1 カルナウバパームツリーの写真
こんな、椰子の葉っぱが生んだ高機能樹脂添加剤ワックスカルナウバには樹脂成分が含有しています。そう、植物が自分を守るために葉っぱの表面を覆う為に分泌するワックスですから皮膜形成の為でしょうか、5%前後の樹脂分を含有しています。
では、この成分どんなものでしょう。抽出してみました・・・
正直簡単にはできません。複数の溶媒の組み合わせと温度コントロールの末に抽出することが可能になります。
写真2 カルナウバワックス樹脂分
この成分、天然ワックスの技術者方のバイブル“ワックスの性質と応用”(幸書房)“ ”Chemistry of Waxes”にもほとんど言及されておりません。弊社はここにフォーカスしました。
写真3 Chemistry of Waxes と ワックスと性質と応用の表紙
化粧品分野では、この樹脂、マスカラの皮膜特性改良材として株式会社コーセーと弊社の開発事例もあります。
樹脂添加剤においては、どのような影響が予測されるか見てみましょう。
◎温度挙動はどうでしょう?
DSCや融解写真から分かる通り、30℃くらいから軟化し、60℃くらいまでには融解するような性質を持っています。
図2 カルナウバワックス樹脂分のDSCチャート
写真4 カルナバワックスとカルナバワックス樹脂分の状態写真
◎組成はどうでしょうか?
表1 カルナウバワックス1号、カルナウバワックス樹脂分、TOWAX-1F3の品質特性(代表値)
図3 カルナウバワックス・カルナウバワックス樹脂分のIRチャート
この樹脂分はカルナウバワックスで確認されている成分(モノエステル・脂肪酸・高級アルコール)以外と言っても良いと思います。言い換えれば、常温で有機溶剤に溶ける成分ってことです。
◎溶剤可溶化性を見てみましょう!
写真5 アルコール系溶剤への溶解写真
カルナウバワックスそのものは、結晶が析出しているのが分かると思います。
樹脂は溶剤にとけて、ヨウ素価が高いのでベンゼン環でしょうか。
ちなみに、TOWAX-1F3は弊社の脱樹脂カルナウバです。
◎高温ではどうでしょう?
樹脂の含有量は低揮発性と関連しそうですね。
また、高温域での発火有無についても違いが確認できますね。
やはり、工業用添加剤としてのカルナウバは樹脂が品質のキーであると考えられます。
弊社樹脂添加剤用ワックスTOWAX-132、及びTOWAX-541は樹脂分をコントロールしてカルナウバの特性いかしたワックスで高温部での低揮発分を抑制しています。
◎耐熱安定はどうでしょうか?
写真6
TOWAX-541、TOWAX-132、低品質カルナウバ1号、カルナウバ2号の熱安定性(熱焼け)写真
金型汚れを気にしながらも、フィラーの高充填が必要な半導体封止材やABSの成形物の摺動性の改善に実績を重ねています。
TOWAX樹脂添加剤は、合成できない組成を生かしつつ天然由来の欠点を補います。
最後に、今回ご覧いただいたTOWAX-132、TOWAX-541について紹介します。
TOWAX-132はカルナウバワックスを精製、グラニュラー化した製品でカルナウバワックスの特徴である高融点を活かしながら、今回触れた樹脂分や遊離アルコール、脂肪酸など、カルナウバワックスの構成成分を上手くコントロールした製品です。各種樹脂添加剤やトナー添加剤、光沢性を活かしてコーティング剤等幅広くご使用頂けます。
TOWAX-541は厳選したカルナウバロウに純度の高い天然エステルを配合し、樹脂の影響を
抑え、耐熱安定性と樹脂成型時の離形効果向上の為、高純度炭化水素ワックスを配合、ABSの添加剤として大きな実績を有しています。
次回は、天然ワックスの低揮発分 Part 2
「高精製ライスワックスと合成エステル配合で機能を落とさず低揮発分抑制」についてお話します。
*「ワックスの性質と応用」幸書房 監修 府瀬川健造1993年(第2版)
初版 1983年
*「The chemistry and technology of waxes」 publisher : American Chemical Society
Author: S.S Kistler Publication Date ; April 1,1948